4/11/2017

イギリスの林檎

30年以上住んだこの家を離れる日も近づいてきました。いつかはロンドン以外の場所で暮らしてみたいといつも思っていましたが、いざ離れると思うとちょっぴりセンチメンタルな気分にもなります。

我が家の庭には息子が生まれた時に記念として植えた林檎の木があります。昔、お隣さんの庭には大木があり、そのすぐそばに植えてしまったために林檎の木は太陽の陽を求めてどんどん大木から離れていって、いつの間にかぐんにゃり曲がってしまいました。いつからか私たちはこの林檎の木をDansing Queenと呼ぶようになっていました。その年によって収穫率はだいぶ違いますが、甘さもほどほどの美味しい林檎を作ってくれます。今年は沢山蕾をつけてくれて、その蕾が日ごとに開いてきています。

















さて、リンゴはイギリスでは最もポピュラーな果物のひとつです。イギリスのアップルパイは有名ですし、リンゴを使ったデザートは数え切れず(アップル.クランブルなど)、他の料理にも多く使われています。我が家ではソーセージとリンゴのシチューが人気で、よく作っています。

有名な諺さえありますよ。

An apple a day keeps the doctor away. 一日一個のリンゴを食べていれば医者はいらない。

リンゴは「ヴィタミンCが豊富」「免疫度を強化する」「アルツハイマーの防止に効果的」「コレステロールを下げる」等々、昔も今も学者さんたちがリンゴに関してさまざまなアドバイスをくれます。納得いくものや???と思うものや。

さてイギリスのリンゴのことに戻ります。イギリスには新石器時代から林檎はあったと言われ、ローマ人も大いに好んだそうですが、美味しい林檎を育てる大きなきっかけとなったのは1066年のノルマン征服の際にフランスからコスターという林檎がもたらされた時でした。修道院では果樹園が造られ、コスター林檎があちこちで生産されます。因みに町で見かける露店の果物売りはコスタマンガーと呼ばれますが、それもこの林檎の名に由来しています。

その後疫病や、戦争など中世の歴史に影響されながら林檎の人気も上がったり下がったり。

近年に入ってからは1973年にイギリスがEUの前進であるEECに加盟してから、リンゴの生産は一時的にかなり少なくなりました。それは生産力の高い他の温かいEUの国々からゴールデン.デリシャスやグラニー.スミスなどのリンゴが大量に入って来たからですが、実はそんなに暑くならないイギリスで適当な雨に励まされてゆっくり育てられたリンゴは質が良く、味、香りも良いのです。でもその頃は大量に生産されていなかったために値段が高く、その結果多くの林檎園が閉鎖されました。

最近では逆に、「イギリスの気候に合ったリンゴ」の生産が盛んになり、スーパーでもユニオンジャックの国旗のスティッカーのついたコックスやガラといった国産のリンゴをよく目にするようになりました。適当な温度と湿気、適度の雨に相応しいイギリスの林檎が味、質の面で見直されてきたのです。

料理用専門の林檎としてはブラムリーアップルがあります。1809年にメアリー.アン.ブレイルズフォードという18歳の女性が庭に植えた種に始まったこのリンゴはそのままでは酸っぱくて食べられませんが、熱を加えても香りがそれほど抜けず、ふわっとした食感になるためにイギリスの家庭で使われる料理用のリンゴの95%以上がブラムリーアップルとか。マーマレードで言えばセヴィル.オレンジのようなものですね。酸っぱくて、苦くてそのままでは食べられませんが、マーマレードにすると抜群の風味がでるというのに似ています。

日本でもこのブランムリーアップルを育てているところがあります。これまでに何度も名前を耳にしたObuseというところで生産されています。なんとブラムリーアップルのファンクラブも日本にあるとか。きっと同じブラムリーアップルでも長野県の気候にあったおいしい林檎なのでしょうね。そのままでももしかしたら食べられる?

こうしてイギリスで生まれる林檎のことを考えていると、我が家の林檎の木にも益々愛着が湧いてきます。ましてや林檎の花を見るのがこれで最後と思えば尚更です。それを知っているかのように、今年はいつもより沢山花を咲かせてくれている気がします。