8/11/2017

煉瓦のこと。

私は煉瓦で出来た古い建物を見るとすぐに触ってみたくなります。古いと言ってもイギリスの事ですから、少なくとも500年以上経っているのが良いのですが、そういう建物はなかなか町を歩いているときに見かけるようなものではありません。でも田舎のほうではたまに表面が雨風で削られているものなどを見かけます。そういう煉瓦は19世紀に機械が導入される前にひとつひとつ手で作られたものです。例えば600年以上は経っているであろう建物の煉瓦は、特に何とも言えない美しいレンガ色が(煉瓦ですもの、煉瓦色は当たり前?)好きです。触れると温かみがあります。

世界で一番古い煉瓦はチグリス地域のもので紀元前7500年のものらしいです。イギリスに上等の煉瓦技術をもたらしたのはローマ人で、そのころに作られた壁や円形劇場などが残っています。彼らは質を保証するためにひとつひとつの煉瓦に刻印を押したと聞きました。それに似たものを函館でも見かけました。公会堂近くの壁です。19世紀のものですが味があります。やっぱり触ってみました。









素晴らしいレンガ技術を持ったローマ人が去ってからは、イギリスでは建物を建てる際には地元で採れる石が使われ出して煉瓦技術は失われていきます。その代り、教会などの素晴らしい石の建物を作る石工人の技術が発達してきました。

そして産業革命後、機械で作られるようになってからは再び煉瓦が使われ始めたのですが、実はそれには大きな理由がありました。霧[スモッグ)です。霧の中でも目立つ煉瓦の建物は、交通事故を防ぎ、また人が迷わないための道しるべとしても重宝されたようです。

さて、ウィンズロウの町にも煉瓦の建物は沢山ありますが、ウィンズロウ.ホールは1700年にクリストファー.レンがデザインした(という説がある。彼はロンドンのセント.ポール寺院やオックスフォード大学のシェルドニアン劇場も設計した)館です。夏にはここでオペラが上演されますが、個人所有の家です。(そう、あのトニー.ブレア元首相が買いたいということで見に来たとか。その後セキュリティの問題で、この話はボツになったそうです。)

先日、この前を通ったらなんと壁が壊されていました。しかも丁寧に。保存しなければいけないはずの建物の壁が壊される? 不思議に思った私はついにある日、仕事中の煉瓦職人に手を休めてもらって聞いてみました。

 


煉瓦職とは大工さんと違って、この国では煉瓦だけを積む専門職です。仕事の邪魔をしたにも拘わらず、この煉瓦職人は丁寧に私の質問に答えてくれました。実は、これは壁を壊しているのではなく、傾きかけてきたために修理をしているとのこと。その修理の仕方を聴いて気が遠くなりました。つまり、保存しなくてはならない建物に登録されているために(ユネスコの世界遺産と同じく、イギリスの遺産として保存に登録されている建物をlisted buildingと言います)、同じ煉瓦を使わなければいけないとのこと。




煉瓦ひとつひとつをはずす作業は時間がかかります。そしてまたそれをひとつひとつ積んでいきます。まるでジグソーパズルです。





藁葺職人もそうですが技術を持った職人が減っている近年、将来のことを考えると心配ですね。後継者を育てなければ。 先日煉瓦に関して色々説明してくれたのはミスター.ブリックス(brickは煉瓦のこと)でした。彼曰く、「先日あなたのような煉瓦好きが通りかかりましたよ。彼はなんと煉瓦専門の本まで出している人でした。」 煉瓦専門の本?そういうのもあるの? ネットで調べて私も買ってみましょう。でも、この煉瓦職人も煉瓦学校(そういうものもあるんですねー)で教えたことがあるとか。「是非是非いつかあなたの煉瓦レクチャーを聴いてみたいです。」とお願いして帰ってきました。